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第一話十三章 ジョバンニの死亡時刻

「琴座」の「ベガ」が天頂に達するのは21時15分ジャスト。
そして、「白鳥座」の中心に位置する「サドル」が天頂に達する時間は、23時ジャスト。
更に、「白鳥の停車場」に20分停車することとなるのだが、出発時刻である23時20分は、「白鳥座」の「デネブ」が天頂に達する時間でもある。

ここで、更なる疑問が生じる。
21時15分に「白鳥座」にあるコールサックを通り、汽車へとワープすることになるのだが、汽車に乗り込んだ時間も同時刻なのであるうか。。。
そして、カンパネルラの現世での死亡宣告時間は、23時なのであろうか。。。

汽車に乗り込んだジョバンニは、「白鳥の停車場」に到着するまでの間、「北十字」を通過しつつ会話していくのだが、その会話には殆ど途切れとか沈黙がなく、非常に短い時間と感じるのであるが。。。


九、ジョバンニの切符

「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。」
「ああ、ぼく銀河ステーションを通ったろうか。いまぼくたちの居るとこ、ここだろう。」
ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。
「そうだ。おや、あの河原は月夜だろうか。」

「銀河鉄道の夜」より



南に向かっている汽車の地図の北とは、銀河の北方向にあたり、すでに通過したことを意味しているのであるが、これには答えていない。
つまり、カンパネルラは「銀河ステーション」を通過したが、ジョバンニはアナウンスを聞いただけで、ここを出発した直後の汽車に乗り込んだということになる。

もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」というカンパネルラのお父さんの言葉が最後に登場する。

23時を生前の善悪を計る場所だとし、もしもカンパネルラが天上に向かうだけの資格がなかったとしよう。
すると当然ながら、23時以降の汽車は「南十字座」に向かうことはないはずである。
ここで、カンパネルラの現世での時間を考察してみることにする。



死亡宣告時間の考察1

生前の善悪を計り、天上へ向かわせるか否かを決定する「アルビレオ」に到着するのが23時。

※ 故に、現世での死亡宣告時間は23時である。(45分前の22時15分が川への転落時間)

死亡宣告時間の考察2

人間は自分が死に至る瞬間、その過去が走馬灯のように見えるという。賢治氏は、カンパネルラの生涯をわずか10年ほど駆け巡らせるのではなく、魂の未来永劫という観点からも、人類が誕生する前までその期間を延ばし、プリオシン海岸での物語りとした。
(補足:23時からの20分間という時間は、カンパネルラが走馬灯を見ていた時間なのである。)

※ 故に、カンパネルラの現世での死亡宣告時間は、23時20分である。(45分前の22時35分が川への転落時間)



ここに二つの可能性を示してみたのだが、短い会話の後、23時を迎えることから、ジョバンニが「白鳥座」のコールサックに入り始めた時間は21時15分であるが、ワープゾーンを抜けて、汽車に乗り込み、「銀河ステーション」のアナウンスを聞いたのは、22時35分ではないかと推測できる。

このことから、ザリネの溺れた時間が22時15分で、カンパネルラは20分間かかってザリネを救出した後、22時35分に力尽きて沈んだものではないかという推測が成り立つのである。

ところがである。

ザネリがね、舟の上から烏うりのあかりを水の流れる方へ押してやろうとしたんだ。そのとき舟がゆれたもんだから水へ落っこったろう。するとカムパネルラがすぐ飛びこんだんだ。そしてザネリを舟の方へ押してよこした。ザネリはカトウにつかまった。けれどもあとカムパネルラが見えないんだ。」
「みんな探してるんだろう。」


という表現から、20分間もの救出時間は長すぎるのである。

ジョバンニが天気輪の丘で寝転んでいる時間帯、すでにカンパネルラが溺れていたとしよう。
そして、それを後で知ることとなるジョバンニの心境。。。
いくら知る術も無く、知らなかったこととはいえ、賢治氏は、そのような舞台を設置するのは忍びなかったのであろう。
故に、天気輪の丘からのワープゾーンを利用して、時間軸を先に進めたのではないのだろうか。

尚、上記2つの時間について、天体図をショミレーションしたところ、その時刻に特定の星や星団が天頂に達するといった特徴はみられないのであるが。。。


天体シュミレーション図

つるちゃんのプラネタリウム」使用

面白いことに、22時15分のシュミレーションでは、長針に例えた「ベガ」は3時方向(すなわち15分)、短針に例えた「デネブ」は10時方向を向いているのである。

法華経の中には、過去・現在・未来(三世)にわたる複数の世界の御仏という教えがある。
つまり、一瞬の間にも、過去・現在・未来の時間が同軸に存在していることとなる。
賢治氏は、一つの時間で複数の時間帯を示すことにより、未来永劫を表現していたのかもしれない。

この物語は、さまざまな天体の動きを織り込み構成されている。
現世と霊界が交差するかのように、「ベガ」を現世の方向、たぶん「銀河ステーション」と思われる「デネブ」を霊界の方向に向けて、時を表したとしても不思議ではないような気がするのである。
更に、「デネブ」の先に位置するのは「アンドロメダ星雲」なのである。(画面上はM31と表示されている。)
このアンドロメダについては、深い意味合いがみられるため、別に後述する。

尚、22時35分の天体図を検証してみると、やはり目立った現象は見られないものの、短針が示す同時刻の延長線上には、「カシオペア座」アルファ星の「シェダル」が位置する。
そして、一見関係なさそうなのだが、カシオペアはアンドロメダの母親にあたり、娘のアンドロメダを自慢したため生贄に出すことに陥ったという神話がある。

短針が10時の方向、長針は15分の方向で10時15分を示すというのは、あまり科学的でない。
これらのことから、この短針の10時35分方向にある「シェダル」の方に、むしろ意味があるような気がする。
「シェダル」という星の名前は「胸」を意味している。
そして、これは、「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。」といった母親への投げかけを示しているとも受け取れるのである。

以上のことから、カンパネルラが川へと飛び込んだ時間が22時35分であり、お父さんによる死亡宣告時間が23時20分ではないかという推測に至るのである。

賢治氏は、22時35分ないし22時15分に、何かの想いなり願いを置いたのかもしれないが、これは消去法により導きだした22時35分であり、これを確証できるだけの要素は見つけ出せていない。



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