ページトップへのバック用アイコンTOP > 箱庭の賢治氏
第一話十八章 天秤座

賢治氏は、何故、見えないはずの「ふたご座」を、わざわざ、南半球へと入ってから取り上げたのであろうか。
これが、「鷲の停車場」を出発した直後であれば、2時4分に地平線より出となるため、理解できるのであるが。。。


九.ジョバンニの切符

「あの鱒なら近くで見たらこれくらいあるねえ、たくさんさかな居るんだな、この水の中に。」
「小さなお魚もいるんでしょうか。」女の子が談につり込まれて云いました。「居るんでしょう。大きなのが居るんだから小さいのもいるんでしょう。けれど遠くだからいま小さいの見えなかったねえ。」ジョバンニはもうすっかり機嫌が直って面白そうにわらって女の子に答えました。
「あれきっと双子のお星さまのお宮だよ。」男の子がいきなり窓の外をさして叫びました。
右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。

「銀河鉄道の夜」より



この文章の冒頭部分は、「魚座」ないし「南の魚座」と推測されるが、「魚座」は汽車の軌跡から「白鳥座」より後方に位置することとなるため、「南の魚座」と解釈する方が妥当であろう。
この直後、乗客たちは、「低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮」を見ることになり、これが「双子座」であることは、容易に察しがつく。
しかし、位置的に不自然であり、今までの実際の星座表に基づく進行が、ここで崩れてしまうこととなる。
そこで、この双子の星を違う星座のたとえとして考察してみると、位置的・神話的に浮び上がってくるのが「天秤座」なのである。

天秤座の位置

「天秤座」は、正義の女神であるアストレアが人間の罪を計るため手に入していた天秤である。
つまり、「アルビレオ観測所」ないし「鷺の停車場」を経て、最終的にこの天秤でカンパネルラの善悪が計られ、結果として、天上界である南十字星へ向かっていくものともとらえられるのである。

しかし、純粋な法華経信者でもあった賢治氏が、いかにも「双子座」と思わせておいて、実は違うといったような仕掛けは作らない。
しかも、汽車の進行方向に向かい、左手に位置する「天秤座」は、「右手の低い丘の上」にあるという説明とは異なっている。

では、賢治氏は、どのようにして、「双子座」が見える舞台を構築したのであろうか。


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