私のような凡人は、物事を平面図でとらえてしまうのであるが、南半球へと進んだ汽車の中からは、「双子座」を眺めることができたのである。
上記イラストの白色線は、通常考えられる見える方向となるのであるが、「右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。」という表現に従い、右側に見えるであろう「双子座」の位置と視線を示したのが、緑色線である。
つまり、平面ではなく、銀河自体を球体として立体的にとらえれば、「双子座」の位置は、今、汽車が走り抜けている銀河の反対側の川岸近くということになる。
更に、
「それから彗星がギーギーフーギーギーフーて云って来たねえ。」
と表現されている箇所については、大正7年に家族に読み聞かした童話「双子の星」の中で
「あっはっは、あっはっは。さっきの誓いも何もかもみんな取り消しだ。ギイギイギイ、フウ。ギイギイフウ。」と云いながら向うへ走って行ってしまいました。
と表現されている。
そして、双子座を横切る長い尾のハレー彗星を黄色線で書き加えてみると、まさに、「双子座」への視線と平行になるのである。
以上を整理してみると、賢治氏は、自身が観察できなかったハレー彗星の地球大接近を、この物語の中で再現していたのである。
そして、登場させた「双子座」自体にも大きな思いが込められおり、チュンセ童子とポウセ童子とは、賢治氏と妹のトシ氏とする説もある。
これについては、また別の機会にふれたいと思うが、「銀河鉄道の夜」に登場させた双子のお星さまは、きっと、そうであろう。
ただし、
「いやだわたあちゃんそうじゃないわよ。それはべつの方だわ。」
「するとあすこにいま笛を吹いて居るんだろうか。」
「いま海へ行ってらあ。」
「いけないわよ。もう海からあがっていらっしゃったのよ。」
「そうそう。ぼく知ってらあ、ぼくおはなししよう。」
としていることから、「双子の星」に登場するチュンセ童子とポウセ童子とは、別の意味合いをもつものだと推測できるのであるが。。。
尚、上記のシュミレーション場面は、汽車の現在場所と双子座が表示される時間帯を設定したもので、大正7年8月7日午前2〜3時のものとは異なるが、各星座位置は変化しないため、特に問題はないと考える。
しかし、ここまで正確に星座と汽車との整合性を保ってきた賢治氏が、このように無理に星座の見える方向を表現するのであろうか。。。
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