ページトップへのバック用アイコンTOP > 箱庭の賢治氏
第一話二十五章 第三時
午後11時・午前2時に様々な意味を込めていた賢治氏。
「南十字座」へと到着する午前3時には、どのような意味があるのであろうか。


九.ジョバンニの切符

「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」車掌がたづねました。
「何だかわかりません。」もう大丈夫だと安心しながらジョバンニはそっちを見あげてくつくつ笑ひました。
「よろしうございます。南十字へ着きますのは、次の第三時ころになります。」車掌は紙をジョバンニに渡して向ふへ行きました。

「銀河鉄道の夜」より



汽車は、十一時きっかりに「白鳥座」のデネブ、かっきり第二時に「鷺の停車場」へと到着する。
ところが、「南十字」への到着時間だけ、「第三時ころ」と曖昧な時間として表現している。
汽車自体は、四次空間の時軸により動いているのだが、実際の動きは、現世の盛岡の時間軸となっている。
そこで、大正7年8月7日午前3時の天体をシュミレーションしてみると、天頂にあるのは「アンドロメダ座」だったのである。
この「アンドロメダ座」には「アンドロメダ大星雲」がある。



つるちゃんのプラネタリウム使用

アンドロメダ座

アンドロメダ座ガンマ1星の「アルクマ」は、二重星で、オレンジ色の主星と青い伴星は、口径の小さな望遠鏡でも観察きる。
古代エチオピア王女のアンドロメダは、その美貌を母のカシオペアより美しいと自慢したため、ポセイドンの怒りを買い、クジラの化け物であるティアマトの生け贄として、海の岩に縛り付けられてしまう。
しかし、ティアマトに襲われそうになったところを英雄ペルセウスにより助け出される。
その後、ペルセウスとアンドロメダは結婚し、後にアテナにより星として天に召し上げたのが「アンドロメダ座」とされている。(古代ギリシア神話)


アンドロメダ星雲

地球から230万光年離れた銀河系の隣に位置し、その規模は銀河系より大きい。
銀河系とアンドロメダ銀河は、およそ30億年後には衝突し、一つの銀河を形成するとみられている。


星めぐりの歌

あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだめの 小いぬ
ひかりのへびの とぐろ
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす

アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち
大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて

(宮沢賢治氏作詞作曲)

この「アンドロメダ星雲」が、大正7年8月7日、天頂に達するのは、午前2時59分である。
物語の中で取り上げられた「南十字」への到着時間「第三時ころ」は、最初稿から最終稿まで変更されていない。
この時間を考察するにあたり、大正7年前後の同時刻の動きを検証したところ、翌年の大正8年は、午前3時きっかりに「アンドロメダ星雲」が天頂に達する。
しかし、軌道は常に変わることなく、その軌跡にも一貫性を持たせていた賢治氏が、最終到達時刻だけに違う年のデータを引っ張ってくるとは考えにくい。
この大正7年の午前2時59分が「第三時ころ」という表現を用いたと推測する。

更に、この時間、アンドロメダは、西方(極楽浄土)へと頭を向けているのである。
四次空間から三次空間へと戻る時刻は、四次空間の三時。

そして、「アルクマ」も二重星であったことや、「アンドロメダ座」の神話の中にも、賢治氏と妹のトシ氏が見え隠れするのである。


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