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第一話二十六章 キャラメルのおまけ (時間検証の結論)

キャラメルを購入するとオマケがついてくるものがある。
そう。「グ○コのおまけ」である。
子供なんぞは、このオマケに胸をときめかすことがあっても、本体のキャラメルの評価は行わない。
今まで、第一章から二十五章まで、さまざまな検証を行ってきたが、これは、おまけの評価と同じではないだろうか。。。
作品の中に、さまざまな要素を取り入れているが、それはおまけに過ぎないのだ。
この「銀河鉄道の夜」も然りである。
しっかりとした本体があってこそ、おまけが生かされるというもの。

賢治氏の作品は、とても素直である。
物語の中に、しっかりとした時間的根拠がなければ、おけけがつくことはない。
そこで、再度、本体のみという観点から、この物語の時間を再検証してみることとする。


1.「第二時」の再検証

「第二時」に込められたおまけ的要素は、第十四章で述べたとおりなのであるが、これを単なる星座表と照合してみると、この時間、天の川の地平線に位置する星がある。
それが「いて座」の「ヌンキ」である。
この「ヌンキ」は海のしるしという意味で、「いて座」のケイロンの弓を引く右手にあたる星である。
そして、この星が地平線へ入る時間がちょうど午前2時なのである。

その正面の青じろい時計はかっきり第二時を示しその振子は風もなくなり汽車もうごかずしずかなしずかな野原のなかにカチッカチッと正しく時を刻んで行くのでした。

如何であろうか。
何もない海原の底で、静かに方向だけを示している標識。
それを天上へとあげたら、こんな表現になるのではないだろうか。。。

下記の天体図は午前2時の状態をちょうど地平線から眺めた場合のシュミレーション図である。

ヌンキからの天体図

Stella Theater Pro」使用

北半球を走り抜けてきた汽車は、ここを境に、南半球へと向かっていっているのである。
このように、実際の星座の動きに合わせた汽車の運行故、ジョバンニが汽車に乗り込んだ時間が、正確に割り出せないはずかないのである。


2.乗車と天気輪の丘への帰還時刻の再検証

この物語は、星祭らしく、「琴座」の「ベガ」を出発点として動きだす。
そして、銀河へと移動した後は、「白鳥座」の構成星の運行時間と連動している。
今まで行ってきた検証の中で、抜けていたのが、七夕に登場する彦星の「アルタイル」と「白鳥座」の「アルビレオ」の時間検証である。
そこで、この2つの動きを取り入れてみたのが、下記の表である。

想定時間1(#1)

天気輪の丘(発) 21:15 「琴座」の「ベガ」が天頂に達する時間
銀河ステーション 22:09 「白鳥座」の「アルビレオ」が天頂に達する時間
白鳥停車場着 23:00 「白鳥座」の「サドル」が天頂に達する時間
白鳥停車場発 23:20 「白鳥座」の「デネブ」が天頂に達する時間
天気輪の丘(着) 22:29 「鷲座」のアルタイルが天頂に達する時間

想定時間2(#2)

天気輪の丘(発) 21:15 「琴座」の「ベガ」が天頂に達する時間
銀河ステーション 22:29 「鷲座」のアルタイルが天頂に達する時間
白鳥停車場着 23:00 「白鳥座」の「サドル」が天頂に達する時間
白鳥停車場発 23:20 「白鳥座」の「デネブ」が天頂に達する時間
天気輪の丘(着) 22:09 「白鳥座」の「アルビレオ」が天頂に達する時間

天気輪の丘からワープした時間と汽車の時間との差については、物語の中で賢治氏自身によって明記されている。
下記の文章は、その箇所を最初稿と最終稿で対比させたものである。

最初稿 最終稿
それは級長のカムパネルラだったのです。
(ああ、さうだ。カムパネルラだ。ぼくはカムパネルラといっしょに旅をしてゐたのだ。)ジョバンニが思ったとき、カムパネルラが云ひました。
「ザネリはね、ずゐぶん走ったけれども、乗り遅れたよ。銀河ステーションの時計はよほど進んでゐるねえ。
ジョバンニは、(さうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出掛けたのだ。)とおもひながら、
「次の停車場で下りて、ザネリを来るのを待ってゐようか。」と云ひました。
「ザネリ、もう帰ったよ。お父さんが迎ひにきたんだ。」

それはカムパネルラだったのです。
ジョバンニが、カムパネルラ、きみは前からここに居たのと云おうと思ったとき、カムパネルラが
「みんなはねずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」と云いました。
ジョバンニは、(そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出掛けたのだ。)とおもいながら、
「どこかで待っていようか」と云いました。するとカムパネルラは
「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎いにきたんだ。」


#2 については、時間と星座の動きが不規則であり、一貫性のようなものは感じ取れない。
これに対し、#1 には、一貫性がみられ、北十字である「白鳥座」を軸として、現世から霊界へと移動したカンパネルラの動きと連動している。
また、「琴座のベガ」〜「白鳥座のコールサック」と「南十字座のコールサック」〜「鷲座のアルタイル」とも連動している。

3.「第三時」の検証

ここまで忠実に時間を再現していた賢治氏のことである。
午前3時にも、オマケ以外の本体としての意味があるはずである。


南半球の透過天体図

Stella Theater Pro」使用

これは観測地点を盛岡のままに固定し、本来見えるはずのない南半球へと移動させた午前3時の天体図である。
観測地点を固定し、視点だけで銀河をそのまま南へと進んでいくと、このように表示される。

南十字座の拡大透過天体図

そして、その「南十字座」近辺の拡大図がこちらである。
十字架が北から南(図では上から下)にかけて並んでおり、十字架の基部に位置する「アルクルス」がちょうど天頂へと到達しているのである。


検証結果

以上のことを踏まえると、

1.ジョバンニが汽車に乗り込んだ時間は、「白鳥座」の「アルビレオ」が天頂に達する時間である大正7年8月6日の22時9分である。

2.ジョバンニが四次空間の第三時から天気輪の丘へと戻った時間は、「鷲座」のアルタイルが天頂に達する22時29分である。
(この三次空間と、四次空間を経た三次空間との時間差は、ちょうど「鷺の停車場」での停車時間と同じ20分間となる。)

3.22時29分へと天気輪の丘へ戻ったジョバンニは牛舎に立ち寄った後、橋の袂でカンパネルラが溺れたことを知ることとなり、お父さんの「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」という言葉を聞くこととなる。
この時間を基に、推定されるカンパネルラが現世で溺れた時刻は、22時9分である。
(ザリネが川に転落した時間が22時9分であり、お父さんが宣告した時間が23時である。)

この時間軸を基に、さまざまな他の天体的要素を、オマケとして組み込んで、構成していったのが「銀河鉄道の夜」なのである。

尚、二十四章で述べたが「プレシオス」が地平線から姿を現す22時54分というのは、最初稿での構成であり、カンパネルラが汽車の中から消えた後、博士と長時間に渡り会話した後に登場する場面である。
時間的には、(#1)と25分ずれているが、これを踏まえて、賢治氏が最初稿から最終稿へと加除していったものではないかという推測も成り立つのである。

以上が、日時を考察した結果なのであるが、実は、大きな問題が残っているのである。
これについては、登場物を考察することで、可能性を検討してみる。


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