ページトップへのバック用アイコンTOP > 箱庭の賢治氏
第二話四十八章 やぐら
ジョバンニがたどり着いた橋は「夕顔瀬橋」であることには違いないのであるが、この橋の様子を賢治氏は「やぐら」という言葉を用いて表現している。


九、ジョバンニの切符

ジョバンニはまだ熱い乳の瓶を両方のてのひらで包むようにもって牧場の柵を出ました。
そしてしばらく木のある町を通って大通りへ出てまたしばらく行きますとみちは十文字になってその右手の方通りのはずれにさっきカムパネルラたちのあかりを流しに行った川へかかった大きな橋のやぐらが夜のそらにぼんやり立っていました。
ところがその十字になった町かどや店の前に女たちが七八人ぐらいずつ集って橋の方を見ながら何かひそひそ談しているのです。それから橋の上にもいろいろなあかりがいっぱいなのでした。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思いました。そしていきなり近くの人たちへ
「何かあったんですか。」と叫ぶようにききました。

「銀河鉄道の夜」より



そこで、この近辺の様子を「盛岡市外鳥瞰図」(昭和3年刊行)で示してみることとする。


夕顔瀬橋近辺夕顔瀬橋近辺


#2がその十字路である可能性は、第二話四十四章で示したのであるが、この文章では四つ角」とか「十字路」という表現ではなく、「十文字」となっている。
更に、この文章では、その場所に多くの人が集まり、ここから、橋のやぐらと橋の上の灯りが見えるのだという。
つまり、この十文字となった場所は、#2ではなく、#1だということになる。

こうなると、賢治氏が表現した「やぐら」とは、星祭のためわざわざ設置されたものでもなければ、橋の中央に安置されている石灯篭のことでもなく、橋の欄干そのものであったということになるのである。


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