ページトップへのバック用アイコンTOP > 箱庭の賢治氏
第三話六章 鳥たち
「白鳥の停車場」を出発した後、汽車の中には「鳥を捕る人」が乗り込んでくることになり、ジョバンニとカンパネルラは、これを食べさせてもらうのであるが。。。

八、鳥を捕る人

#1
「わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥をつかまへる商売でね。」
「何鳥ですか。」
「鶴や雁です。さぎも白鳥もです。」
「鶴はたくさんゐますか。」
「居ますとも、さっきから鳴いてまさあ。聞かなかったのですか。」
「いゝえ。」

(中略)

#2
「鶴、どうしてとるんですか。」
「鶴ですか、それとも鷺ですか。」
「鷺です。」ジョバンニは、どっちでもいいと思ひながら答へました。
「そいつはな、雑作ない。さぎといふものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原で待ってゐて、鷺がみんな、脚をかういふ風にして下りてくるとこを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押へちまふんです。するともう鷺は、かたまって安心して死んぢまひます。あとはもう、わかり切ってまさあ。押し葉にするだけです。」
「鷺を押し葉にするんですか。標本ですか。」
「標本ぢゃありません。みんなたべるぢゃありませんか。」
「おかしいねえ。」カムパネルラが首をかしげました。

(中略)

#3
「鷺はおいしいんですか。」
「えゝ、毎日注文があります。しかし雁の方が、もっと売れます。雁の方がずっと柄がいいし、第一手数がありませんからな。そら。」鳥捕りは、また別の方の包みを解きました。すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあかりのやうにひかる雁が、ちゃうどさっきの鷺のやうに、くちばしを揃へて、少し扁べったくなって、ならんでゐました。
「こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。」鳥捕りは、黄いろな雁の足を、軽くひっぱりました。
「さうさう、ここで降りなけぁ。」と云ひながら、立って荷物をとったと思ふと、もう見えなくなってゐました。

「銀河鉄道の夜」より


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「白鳥の停車場」を過ぎた後、鳥捕りとの会話の中には「白鳥」「鶴」「雁」「鷺」が登場する。(#1
一瞬、天体の星座に沿った話の進行かと思うのであるが、実際の天体図に登場するのは「白鳥座」と「鶴座」だけである。
また、ミャンマーでは「鷺」を主要星座の一つに数えているが、一般的ではなく、当然、「雁」にまつわる星座は存在しない。
しかも、星座にはない「雁」と「鷺」は食べるのだという。(#2〜3

鳥がお菓子に変わるというのは、大正14年4月に書かれた「種山ヶ原」の中に、「鳥はいつか、萌黄色の生菓子に変っていました。やっぱり夢でした。」という記載がみられ、「銀河鉄道の夜」に限られたことではない。
また、「種山ヶ原」に続いて「岩手軽便鉄道七月」という作品も書き上げていることから、「銀河鉄道の夜」とどちらを先に書か上げたものか、定かではないものの、ある程度の関連性はあるように感じる。

では、賢治氏は「雁」「鷺」を何に例え、どのような意味がこめられているのであろうか。


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