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第二話二十五章 原稿の変遷2

ここで、もう一度、最初稿と最終稿の違いを掲載する。
下記の対比表では、最初稿と最終稿とで、まったく設定を変えていない部分を分かりやすくするために、セルをクリーム色で標示させてみた。

最終稿 最初稿
学校の校門を出る。(町の家々では祭りの飾りつけをしている。) (なし)
町を三つ曲ってある大きな活版処に行く。 (なし)
裏町の小さな家に帰る。(家の入口は三つ並んでいる) (なし)
家を出て、檜のまっ黒にならんだ町の坂を下りていく。
坂の下には大きな街灯が立っいて、向こう側の暗い小路からザリネが飛び出てくる。
綺麗に飾られた街を通って、時計屋の前に出る。
町を通って行くと、電気会社の前には6本のプラタナスの木がある。
町はずれのポプラの木が何本も並んでいるところを通り、牛の居る牛乳屋の黒い門をくぐる。
さっき来た町かのかどを曲がろうとし、向うの橋へ行く方の雑貨屋の前で、ザリネ達に出会う。 十字になった町かのかどを曲がろうとし、向うの雑貨屋の前で、ザリネ達に出会う。
(なし) 檜の中の家には帰らず、北の方の町外れに走っていく。
(なし) 河原がぼっうと白く光っている小さな川に架かっている細い鉄の欄干のついた橋を渡る。
黒い丘の方へ急ぐ。 力一杯走り出す。
牧場の後ろはゆるい丘になっていて、平らな頂が見える。 川の後ろはゆるい丘になっていて、平らな頂が見える。
小さな林の小道を登っていく。
松や楢の林を越えて、頂へと至る。
丘の頂には天気輪があり、街の灯りが見渡せ、野原を見渡すと汽車の音が聞こえる。 丘の頂には天気輪があり、街の灯りが見渡せ、野原から汽車の音が聞こえる。
(銀河ステーション)
丘を走って下り、黒い松の林の中を通り、牧場の白い柵を回って、牛舎にたどり着く。 丘を走って下り、林の中で、ポケットの金貨が鳴るのに気づき、牛乳屋へと向かう。
木のある町を通って大通りを出でしばらく行く。 (なし)
十字路に出て、右手の方には、大きな橋のやぐらが見える。 (なし)


これを見る限りは、自宅を出て丘に向かうまでの舞台設定が、まったく同じものだという解釈になり、今まで、このことを念頭に置きながら、丘の場所を推定していたため、必ず不自然な軌跡となってしまっていたのである。

自宅については、最初稿で「清養院」、最終稿では「その三つならんだ入口」と付記されていることから、これを「徳玄寺」へと設定を変えてる可能性が非常に高い。
これと同じく、まったく設定が同じである上記の対比表でも、「牛乳屋」を変更していたと考えると、ジョバンニの軌跡にも、かなりの具体性が出てきたのである。

上の対比表の中で、赤文字で記載してあるところは、ほぼ舞台となった場所を確定した場面である。
そこで、牛乳屋と牧場を考察する前に、これを地図に示してみることとする。


確定?場所確定?場所
確定?場所確定?場所


これは、今までに登場したところの内、最初稿と最終稿において、変わっておらず、たぶんここであろうとある程度固まった場所を示してみたものである。
電気会社のプラタナスについては、第二話十六章に記載したとおりなのであるが、この物語の初稿が成立したのは、大正11〜13年ということや、後述する牧場のことなどを勘案し、現在の「東北電力」であると確信している。
また、時計店については、どちらであるのか、現段階では確定できるだけの根拠が見出せていないため、両店を載せた。
そして、自宅を出た後、

檜のまっ黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立ってゐました。大股にその街燈の下を通り過ぎたとき、いきなりひるまのザネリが、新らしいえりの尖ったシャツを着て電燈の向う側の暗い小路から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。

という場所を、拡大してみたのが以下のものである。

路地拡大図


ザリネが飛び出てきたのは、もう少し下の四つ角かとも思えるのであるが、「暗い小路」という表現から、ここは「証明寺」横の小道のことであろう。


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