ページトップへのバック用アイコンTOP > 箱庭の賢治氏
第二話三十三章 もう一つの牧場
賢治氏が、最初稿から「小さな川」を消去し、最終稿で「牧場」を登場させた理由は、第二話二十七章に記した「外山牧場獣医学舎」にある。

賢治氏は、最初稿において、ここを「牛乳屋」として設定していたのである。
ところが、この「外山牧場」(盛岡農学校)は、昭和4年4月、移転してしまい、その跡地は街として再開発されてしまったのだ。
つまり、あくまでも現実の世界として描いていたジョバンニの街から牛乳屋が消えてしまったのである。


一、午后の授業

「ですからもしもこの天の川がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や砂利の粒にもあたるわけです。またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似ています。つまりその星はみな、乳のなかにまるで細かにうかんでいる脂油の球にもあたるのです。そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮んでいるのです。つまりは私どもも天の川の水のなかに棲んでいるわけです。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集って見えしたがって白くぼんやり見えるのです。この模型をごらんなさい。」

「銀河鉄道の夜」より



これは、最終稿になってから、登場したジョバンニが授業を受けている時の様子である。
賢治氏自身も学校教諭という形で銀河を語っているが、銀河は「The Milky Way」となる。
この物語にはさまざまな物が登場し、その殆どに賢治氏は二面性を持たせている。
そして、「地上での牛乳」と「天空での銀河」がつながる。
また、現世界と天上界は、簡単には行き来できない。
いくつものワープ要因が必要であり、その一つが「天気輪」であり、この物語に登場する「牛乳」もまた然りだったのである。
牧場と想定していた「外山牧場獣医学舎」が無くなってしまったからと、牛乳屋を消去する訳にはいかなかったのだ。
故に、牧場であった「外山牧場獣医学舎」を「家畜医院」へと動かしたために、ジョバンニの軌跡が変更されたのである。

尚、後述するため、ここでは詳細を記さないが、「天気輪のある丘」も動かさなければならない理由が存在したのである。

「外山牧場獣医学舎」の横には「岩手公園」(盛岡城跡)があり、ここは、かなりの高さがある。
ここへと登れば、当時であれば、街中を一望できたはずである。
しかし、ここの高さは石垣によるものであった。
また、天空へと旅立つためには、いくつものキーが必要であったことから、ここは、賢治氏の考える「天気輪の丘」としては、ふさわしくなかったということになる。

次章では、第二話三十一章と同様に、最初稿において「外山牧場獣医学舎」を「牛乳屋」として想定した場合に、ジョバニとザリネ達の軌跡が照合するかを検証してみる。


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