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第二話三十六章 丘への分岐点(最初稿)

「上の橋」へとたどり着き、橋の上でぼーっとしていたジョバンニは、どこへ向かったのであろうか。
以下のものは、「盛岡市外鳥瞰図」(昭和3年刊行)に、二ヶ所の可能性を示してみたものである。


丘の候補丘の候補
「岩手県の百年」表装より引用


この橋へと辿りついた後、ジョバンニの行動を示しているのは、「ジョバンニは橋の上でとまって、ちょっとの間、せはしい息できれぎれに口笛を吹きながら泣き出したいのをごまかして立ってゐましたが、俄かにまたちからいっぱい走りだしました。」という部分だけである。
つまり、ジョバンニは橋を渡って丘へ向かっていったのか、あるいは、橋の上で引き返して丘に向かったのかが分からないのである。

「川のうしろのゆるい丘」 #1 「愛宕山」「愛宕山中腹」(北山近辺を含む)
「川のうしろのゆるい丘」 #2 「山王山」「天満宮」「東新庄」

これは、第二話二十四章で取り上げた「3・#3」「5・6・7」に該当するところであるが、最初稿では、橋の上に佇むジョバンニの心境が綴られている。


五、天気輪の柱

(ぼくはもう、遠くへ行ってしまひたい。みんなからはなれて、どこまでもどこまでも行ってしまひたい。それでも、もしカムパネルラが、ぼくといっしょに来てくれたら、そして二人で、野原やさまざまの家をスケッチしながら、どこまでもどこまでも行くのなら、どんなにいいだらう。カムパネルラは決してぼくを怒ってゐないのだ。そしてぼくは、どんなに友だちがほしいだらう。ぼくはもう、カムパネルラが、ほんたうにぼくの友だちになって、決してうそをつかないなら、ぼくは命でもやってもいい。けれどもさう云はうと思っても、いまはぼくはそれを、カムパネルラに云へなくなってしまった。一緒に遊ぶひまだってないんだ。ぼくはもう、空の遠くの遠くの方へ、たった一人で飛んで行ってしまひたい。)

「銀河鉄道の夜」より



これは、いわゆる「逃避」にあたる。
このような心境で、自身の自宅、あるいは、ザリネやカンパネルラの自宅のすぐ後ろに位置する場所に向かうであろうか。(この当時すでに学校の地区割り制確立)
こうなると、橋を渡りきって、街から遠ざかろうとした可能性が高く、上記「#2」へ向かっていったと解釈する方が自然である。
また、ここで表現されている「川のうしろの」の「川」とは、「上の橋」が架かる「中津川」のことではなく、丘の前を流れている水路のような小河川のことをさしているのであろう。


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