ページトップへのバック用アイコンTOP > 箱庭の賢治氏
第二話五十二章 最終稿の軌跡

今までの考察を取りまとめて、最終稿におけるジョバンニの軌跡を物語本文とともに示してみることとする。
尚、最初稿と同様、本文間の改行空白は、その間を省略していることによる。


けれどもジョバンニは手を大きく振ってどしどし学校の門を出て来ました。 (#1)
すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにりにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの枝にあかりをつけたりいろいろ仕度をしているのでした。
第二話二十二章 学校の桜

家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴をぬいで上りますと、突き当りの大きな扉をあけました。 (#2)
第二話十一章 活版所 第二話十二章 活版所2

自宅から活版所まで

ジョバンニは俄かに顔いろがよくなって威勢よくおじぎをすると台の下に置いた鞄をもっておもてへ飛びだしました。それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散に走りだしました。 (#3)
第二話十三章 パン屋

ジョバンニが勢よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫いろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆いが下りたままになっていました。 (#4)
第二話十九章 徳玄寺

活版所から自宅まで

「では一時間半で帰ってくるよ。」と云いながら暗い戸口を出ました。

檜のまっ黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。
坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立ってゐました。

大股にその街燈の下を通り過ぎたとき、いきなりひるまのザネリが、新らしいえりの尖ったシャツを着て電燈の向う側の暗い小路から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。 (#5)
第二話二十五章 原稿の変遷2

ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯や木の枝で、すっかりきれいに飾られた街を通って行きました。時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子の盤に載って星のようにゆっくり循ったり、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。 (#6)
第二話十四章 時計屋 第二話五十章 時計屋〜電気会社〜牛乳屋

ジョバンニはその店をはなれました。そしてきゅうくつな上着の肩を気にしながらそれでもわざと胸を張って大きく手を振って町を通って行きました。
空気は澄みきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、街燈はみなまっ青なもみや楢の枝で包まれ、電気会社の前の六本のプラタヌスの木などは、中に沢山の豆電燈がついて、ほんとうにそこらは人魚の都のように見えるのでした。 (#7)
第二話十五章 電気会社 第二話十六章 盛岡電気株式会社

自宅から電気会社まで

ジョバンニは、いつか町はずれのポプラの木が幾本も幾本も、高く星ぞらに浮んでいるところに来ていました。その牛乳屋の黒い門を入り、牛の匂のするうすくらい台所の前に立って、ジョバンニは帽子をぬいで「今晩は、」と云いましたら、家の中はしぃんとして誰も居たようではありませんでした。 (#8)
第二話二十六章 牛乳屋と牧場 第二話三十章 「ポラーノの広場」と「牧場」 第二話三十一章 ジョバンニの道筋

電気会社から牛乳屋まで

十字になった町のかどを、まがろうとしましたら、向うの橋へ行く方の雑貨店の前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火を持ってやって来るのを見ました。(#9)
第二話三十一章 ジョバンニの道筋 第二話四十八章 やぐら

町かどを曲るとき、ふりかえって見ましたら、ザネリがやはりふりかえって見ていました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて向うにぼんやり橋の方へ歩いて行ってしまったのでした。

まもなくジョバンニは黒い丘の方へ急ぎました。

牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は、北の大熊星の下に、ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。
ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行きました。

そのまっ黒な、松や楢の林を越えると、俄かにがらんと空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亘っているのが見え、また頂の、天気輪の柱も見わけられたのでした。つりがねそうか野ぎくかの花が、そこらいちめんに、夢の中からでも薫りだしたというように咲き、鳥が一疋、丘の上を鳴き続けながら通って行きました。 (#10)
第二話三十九章 天気輪の丘(最終稿) 第二話四十章 天気輪の丘(最終稿の再検証) 第二話四十一章 丘の比較

牛乳屋から丘まで

ジョバンニは一さんに丘を走って下りました。まだ夕ごはんをたべないで待っているお母さんのことが胸いっぱいに思いだされたのです。どんどん黒い松の林の中を通ってそれからほの白い牧場の柵をまわってさっきの入口 (#11) から暗い牛舎(#12) の前へまた来ました。
第二話四十五章 モーリオ市 入口から牛舎へ(最終稿)

丘から牛舎まで

そしてしばらく木のある町を通って大通りへ出てまたしばらく行きますとみちは十文字になってその右手の方通りのはずれにさっきカムパネルラたちのあかりを流しに行った川へかかった大きな橋のやぐらが夜のそらにぼんやり立っていました。 (#13)
第二話四十三章 カンパネルラの橋2 第二話四十七章 夕顔瀬橋 第二話四十八章 やぐら

ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。橋の上は人でいっぱいで河が見えませんでした。白い服を着た巡査も出ていました。
ジョバンニは橋の袂から飛ぶように下の広い河原へおりました。 (#14)
その河原の水際に沿ってたくさんのあかりがせわしくのぼったり下ったりしていました。向う岸の暗いどてにも火が七つ八つうごいていました。そのまん中をもう烏瓜のあかりもない川が、わずかに音をたてて灰いろにしずかに流れていたのでした。
河原のいちばん下流の方へ洲のようになって出たところに人の集りがくっきりまっ黒に立っていました。ジョバンニはどんどんそっちへ走りました。(#15)
するとジョバンニはいきなりさっきカムパネルラといっしょだったマルソに会いました。マルソがジョバンニに走り寄ってきました。
「ジョバンニ、カムパネルラが川へはいったよ。」
第二話四十二章 カンパネルラの橋1 第二話四十七章 夕顔瀬橋

牛舎から夕顔瀬橋まで


以上が、最終稿におけるジョバンニの軌跡である。
「自宅から時計屋に至るまで」と「電気会社から牛乳屋」へと至る道のりについては、残念ながら、確証の伴わない推測によるものであるが、他の軌跡については、かなり忠実に当時の盛岡市を再現しているのではないだろうか。


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